専守防衛における戦車の価値   海国防衛ジャーナル

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2 8月
2010年08月02日 03:33
日本
専守防衛における戦車の価値
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太 平洋戦争末期、海空の戦力を失ったことで日本の退勢は決定的になりました。海上封鎖によって経済には大きなダメージを受け、太平洋の航空優勢(制空権)を 米軍に奪われたことで戦線の縮小を余儀なくされました。その経験からか、陸上防衛戦(本土決戦)回避のためには海空自衛隊こそが要であるとして、陸上自衛 隊をやや軽視する向きがあります。もちろん、マハンやドゥーエなどの意見を借りるまでもなく、海空戦力の重要性に疑問を抱く余地はありません。制空・制海 権の有無は、陸軍の活動に大きな影響を及ぼします。しかし、昨今の戦車不要論などを見るにつけ、日本の安全保障上、陸上戦力の価値が若干過小なものになっ てはいないでしょうか。我が国の防衛政策の本旨である「専守防衛」にとって、戦車は不可欠であるはずなのです。


◆ 専守防衛と戦略守勢の違い

日 本の防衛政策や安全保障を議論する際、憲法の改正や政府見解の変更を求め、各人の考える「理想的な」防衛政策を描くことも大切ではありますが、まずは今現 在行使可能な枠の中で最善の戦略・戦術を語らなければなりません。そこで、前提として確認すべきは、我が国の防衛政策が「専守防衛」を基調としているもの だということです。

もともと、「専守防衛」という用語は昭和45年刊行の防衛白書の中で初めて登場します。
専 守防衛の防衛力は、わが国に対する侵略があつた場合に、国の固有の権利である自衛権の発動により、戦略守勢に徹し、わが国の独立と平和を守るためのもので ある。したがつて防衛力の大きさおよびいかなる兵器で装備するかという防衛力の質、侵略に対処する場合いかなる行動をするかという行動の態様等すべて自衛 の範囲に限られている。すなわち、専守防衛は、憲法を守り、国土防衛に徹するという考え方である。
『昭和45年度防衛白書』 第2部 日本防衛のあり方

ここで注目して頂きたいのが、「戦略守勢」という言葉です。専守防衛は、生まれた当初は「戦略守勢」と同義語として解釈されていました。

専 守防衛と戦略守勢の違いは、攻撃に対する姿勢です。「専守防衛とは先制攻撃をしないこと」というのが特徴の一つに挙げられますが、これは専守防衛に限ら ず、一般的には当たり前の政策です。というのも、現在の国際法や国連憲章上、先制攻撃は原則侵略行為とされているためです。戦略守勢も受動的防御姿勢であ る点は専守防衛と同じなのですが、こちらは先制攻撃を凌いだ後は「戦略攻勢」に転じ、敵地への攻撃を含め、徹底的に相手を叩くことを否定しません。戦略守 勢は戦略攻勢と表裏一体であることによって国家の安全を保証しているのです。

かたや、専守防衛は時を経るにつれて変質し、攻勢面での選択肢を著しく制限していきます。現在の防衛省の専守防衛に対する見解は次の通りです。
相手から武力攻撃を受けたときに初めて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略の姿勢をいいます。
防衛政策の基本(防衛省HP) 

このように、現在の専守防衛は当初の戦略守勢的なものからはかけ離れたものとなっています。攻撃を受けて初めて防衛力を行使し、必要があっても相手の基地を攻撃しないのですから、もはや戦略守勢とイコールではありません。

専 守防衛の下でも敵地攻撃は可能である、というような議論もあります。現時点で自衛隊はそのための能力を有していませんが、「急迫不正の侵害が行われ」、 「他に適当な手段のない場合」においては、「座して死を待つ」のではなく、一定の制限の下で攻撃的行動を行うことは、法理論上は認められていると解釈され てきました(第24回国会衆議院内閣委員会会議録第15号)。こうした理解は1959年の伊能繁次郎防衛庁長官による答弁や、1999年の野呂田芳成防衛庁長官による答弁な どでも確認することができます。しかし、この議論はあくまで法理論的なものでしかありません。なぜなら、その裏付けとなる能力を自衛隊は保持していないか らです。昭和51年度版の防衛白書において、ICBMだけでなくIRBM、長距離爆撃機、攻撃型航空母艦等は保有しないということが明記されました。つま り、日本は敵地を攻撃し得る兵器を持つ意思を否定しており、法理論上は可能かもしれない敵地攻撃が事実上不可能なのです。これら攻撃用兵器は、戦略守勢政 策の下であれば保有に制限がかかることはありません。結局のところ、専守防衛を掲げるということは、本来ならば鉄壁の防御力を備えておかなければならない のです(そんなの米軍でも無理ですが)。


◆ 専守防衛にとって本土決戦は想定内

こ のように、「相手から武力攻撃を受けたときに初めて防衛力を行使する」という専守防衛の理念を前提に考えますと、有事の際、日本は敵の先制攻撃や国土が戦 場になることを甘受しなければなりません。専守防衛というのは、極論すれば軍事的に損害を受けるところから始まるのですから当然です。したがって、本土上 陸をされれば終わり、という理解は専守防衛を掲げる以上成り立ちません。専守防衛のもとでは、開戦早々に日本本土で戦闘が行われる可能性もあるのです。日 本が戦う目標は、敵の侵攻を受ける前の状態まで戻すという点に置かれることとなります。

そもそも、敵による侵略を100%防ぐのはほとん ど不可能です。その上、日本の陸地面積はドイツと同規模で、海岸線の長さ、排他的経済水域の広さはともにロシアとほぼ同じ。狭い島国…なんて一口に言って も、それなりにけっこう広いんです、日本って。その日本本土に兵力を投入しようという場合、一般的に敵は任意の場所に局地的な制海・制空権(海上・航空優 勢)を獲得しようとします。これに対して、海上自衛隊は2個護衛艦隊群で上記の広大な海域、長い海岸線を守らなければならず、相手が複数個所に分散して上 陸しようとしてきた場合には、対応しきれないかもしれません。仮に防衛予算を大幅に増やして3個護衛艦隊群を即応体制にしたとしても完全にカバーできるも のではありません。空に関しても同じことが言えます。敵が自ら選んだ空域にある程度戦力を集中できるのに対し、こちらは全領域を守らなければなりません。 しかし、航空自衛隊が国土の全域で絶えず航空優勢を期し、どこに指向されるかもわからない敵の空挺攻撃を完全に阻止するなんてことは至難の業です。そこ で、重要になってくるのは、着上陸した敵の勢力を阻止し戦術的に反撃するための陸上戦力です。


◆ 専守防衛に適した10式戦車

敵 にとって、日本本土への侵攻は時間との戦いになります。なぜなら、せっかく電撃作戦が成功して日本国内に橋頭堡を築いても、そこでまごまごしているうちに 日米安保に基づいて米軍が介入してくるからです。ちなみに、実際に日米安保が機能するかどうかは問題ではありません(もちろん、機能するよう願います が)。少なくとも侵攻側にしてみれば、日本に侵攻した場合には米軍の介入はあって当然と見るでしょうし、介入を前提とした作戦計画を練るのが自然です。日 米同盟は抑止力である、というのはこういうことでもあるのです。

敵としては米軍の介入を極力回避すべく、短期間での戦略目標の達成を目指 します。アメリカが介入してくるまでの限られた期間の中で最大限の成果を上げる必要がありますから、下手をすると、着上陸作戦のための海上・航空優勢獲得 という手順さえ省こうとするかもしれません。ともかくも、日本の本土へ着上陸した敵勢力は、海岸地域や山間部に橋頭堡を築いた後、そこを拠点として内陸 部、とりわけ都市部へ速やかに侵攻します。日本の政治・経済・交通・通信システムを破壊するためには都市部の制圧が不可欠ですから、都市部を抑えない限り 勝利は得られません。繰り返しますが、専守防衛を掲げる以上、「市街戦になっている時点で日本は負けてるじゃん」、というレトリックは成り立ちません。

都 市防衛のための市街戦では、特殊作戦部隊も重要な役割を果たしますが、やはり戦車が強力な戦力となります。重装甲防御力によって人命の損耗を抑えることが できますし、大口径砲による火力で戦術的反撃をすることができます。市街地での戦車の有効性は、第二次世界大戦のスターリングラードの戦いを始めとして、 イスラエルのレバノン侵攻やイラク戦争で経験的に確認されています。例をあげると、イラクでM2ブラッドレー歩兵戦闘車のみの海兵隊の歩兵大隊は多くの戦 死者を出し、M1戦車を装備した陸軍大隊の戦死者は明らかに少ないことが証明されています。

日本は10式戦車が制式化されたばかりです が、小型で軽量であるだけでなく砲塔側面はRPG-7対戦車ロケット弾の直撃にも耐える防御性能を有しており、市街戦にはうってつけです。近年では市街地 戦闘の増加によってゲリラなどによるRPG-7による攻撃が脅威となっていて、今までのように正面だけでなく全方位からの攻撃が想定されるようになりまし た。そのため世界各国の戦車ではこれに対抗できる全周防御がトレンドとなりつつあるのですが、10式でもその点が考慮されています。市街戦で特に要求され る戦術機動性にも優れ、90式戦車の半分の半径で旋回が可能であったり、後退速度は時速70kmを発揮することができたりします。

また、全国の主要国道における橋梁は17,920箇所ありますが、10式の橋梁通過率は84%で、90式や60トン級の海外主力戦車より優れています(防衛省)。 加えて、モジュール装甲を取り外すだけで特に分解することなく74式戦車の輸送に使われる73式特大型セミトレーラーや民間の大型トレーラーでの輸送が可 能となるため、戦略的機動性が大幅に向上していることも大きな利点です。敵の着上陸が行われてから防衛側の対処開始までの時間が短いこともまた、敵の侵攻 意思を挫く抑止力の一つとなりますからね。

そもそも、戦車の要・不要を問うのはナンセンスで、要るに決まっています。敵にしてみれば、対 戦車兵器を携行する必要がありますし、そのための運用コスト、携行する歩兵の負担、それに伴う戦術的制約などなど、戦う前の準備がわずらわしく、戦車があ るということだけで、敵の侵攻意欲を物心両面から削ぐ働きがあります。戦争と経済は不可分ではなく、最終的に戦費よりも戦果が大きいという図式が成立しな い限り武力侵攻などにとりかかったりしません。敵方の戦略的戦術的な目標達成を難しくさせるという効果ひとつをとってみても、戦車の存在意義は大きいこと が分かります。専守防衛の基本理念は抑止ですから、その点からみても、陸上戦力、とりわけ戦車の価値が日本の防衛戦略の可否を担っているとさえ言えます。
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