中国が環境対策に本腰を入れない理由

中国が環境対策に本腰を入れない理由
深刻な大気汚染も飢え死によりはマシ?
2013.02.14(木)
 姫田 小夏

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37119

「もう北京出張は当分行きたくない」――。中国人の友人が出張先の北京から戻ってきた。マスクをしてもノドは荒れ、口のまわりには水泡ができたという。電話の向こうからは、「命からがら帰国した」かのような憔悴ぶりが伝わってくる。
 日本のメディアも連日伝えるように、中国では大気汚染が深刻だ。2013年1月、北京でスモッグが発生しなかったのはたった5日だった。上空には4000トンにも上る汚染物質が浮遊しているともいう。
 こうした浮遊粒子状物質のうち、特に粒径が小さいPM2.5(直径2.5マイクロメートル以下の微粒子)は喘息や気管支炎を引き起こすとされる。北京ではマスクなしでは外出できないような状況だ。
 スモッグは北京上空のみで発生しているのではない。中国の960万平方キロメートルに及ぶ国土の7分の1を覆い、広域に及んでいる。上海も例外ではない。1月30日は重度の大気汚染が18時間も続いた。心臓病、動脈硬化、肺癌の発症を恐れる市民は自宅に閉じこもった。
 実際、北京では、2000年以降の十数年間で肺癌の患者数が60%も増えた。上海では2010年、PM2.5が原因で死亡した患者が3000人近くに上るとも言われている。
 「空気中の猛毒を直視せず、何年も放置した」。中国のネット上の書き込みでは環境問題に無力な役人を突き上げる声が渦巻いている。
「飢え死にするよりも喘息で死んだ方がマシ」
 中国では省エネや汚染削減が政策上のスローガンにもなっていた。経済発展一辺倒から一転して省エネ・環境問題への取り組みを掲げるようになったの は、「第11次5カ年計画」(2006~2010年)からである。「GDP当たりのエネルギー消費量を20%削減」「主要な汚染物排出総量を10%削減」 などの目標を掲げ、政府や行政各部門はその達成義務を負うものとされていた。
 前者については19.1%の削減、後者については大気汚染物質(SO2)で14.29%減、水質汚染物質(化学的酸素要求量:COD)で12.45%減となり、国務院曰く「顕著な効果を上げた」ものとなった。
しかし、数字と現実に恐ろしいほどの乖離があることは、最近の惨状を見れば一目瞭然である。
 第11次5カ年計画では、政府や行政各部門が達成義務を負うとはいえ、いかにして役人に本腰を入れて取り締まりを行わせるかが、もう1つの課題となっていた。
 「削減目標を達成すれば昇給昇進」と鼓舞しても、この作戦は長続きするものではなかったようだ。地方政府は現在に至っても“投資誘致至上主義”にとらわれている。経済成長の勢いを削ぐことにもなりかねない環境対策は、地元企業の利益に相反するものと考えられている。
 「飢え死にするよりも、喘息でむせ返って死ぬ方がマシ」――。地方政府の役人の本音はこれだ。そこには、環境問題など真面目に取り組んでいたら、貧困から脱することができない現実がある。
 企業にとっても、環境問題への真面目な取り組みは足かせになる。例えば、排水処理。先進技術を駆使した処理システムのコストは1000トン当たり300元かかるが、従来システムならば60元と5分の1程度で済む。
 華東地区のある工場では、先進排水処理設備を導入したものの、稼働させるのは当局の検査が入るときのみだ。平常時は基準値の10倍を超える汚水を平気で「偸排」(toupai:「垂れ流し」)する。
 「偸排」が見つかれば、1回10万元(1元=約13円)程度の罰金を科される。しかし、中国人経営者は「偸排」を選んでしまう。新しい設備を稼働 するよりも罰金を払った方が断然安いし、「手っ取り早い」ためだ。地方政府にとっても、不正をしてでも利益を出して納税してもらった方がありがたい。
 中国には環境に関する法律はあるが拘束力がない。さらに地方によって法の解釈が異なる、という点も問題となっている。
中身がなかったいままでのスローガンと取り組み
 上海万博は第11次5カ年計画の最終年度である2010年に開催された。上海万博のスローガンは、「より良い都市、より良い生活」だった。もちろ ん「低炭素社会の実現」もその中に織り込まれていた。環境対策や省エネがもたらす持続可能な都市の発展――だがそれは“万博期間中だけのスローガン”に過 ぎなかったようだ。
期間中はエコプロジェクトがあちこちで立ち上がった。天津エコシティなどに見る省資源、資源循環の効率化をコンセプトとする環境都市プロジェクト は、約30平方キロメートルの敷地に35万人が居住するという大規模案件である。中国は類似のエコシティを各地に作ろうとした。しかし、それは本気で取り 組む“エコロジー”ではなく、単なる不動産開発の域を出るものではなかった。
 また、驚くべきことに、中国は国際社会において“環境立国”としてプレゼンスを高めようという野望を抱いている。発展途上国間の協力である「南南 協力」がそれで、南アフリカ、ラテンアメリカ、キューバ、インドでクリーン開発メカニズムを導入しようと計画を進めている。中国は南南協力の中で、先進国 から“吸収”したマネジメントやノウハウを用いて、イニシアチブを掌握しようとしている。
 しかし、足元はこのありさまである。今回浮き彫りになった中国の環境問題の深刻さは、中国のいままでの取り組みが「単なるお題目に過ぎず、ほとんど実を伴わない」ことを露呈した。
環境問題を金で解決しようとする中国企業
 今から約40年前、深刻な公害が社会問題になっていた日本では、「大気汚染防止法」「水質汚濁防止法」「悪臭防止法」など公害関連の法律が次々と 整備された。同時に、各業界が公害技術研究会を発足させ、公害防止についての製造技術の研究や、公害防止設備の開発などについて共同で研究をするなど、情 報交換に動き出した。
 企業も自らの存亡をかけて公害対策に真剣に取り組み、予算を投じた。例えば紙パルプ業界では、当時、王子製紙が公害防止のために投じた金額は 600億円に上る。それは業界の年間の利益に匹敵する金額に相当するものだった(王子製紙刊『紙の文化と産業 製紙業の100年』昭和48年)。
 転じて中国では毎年、工信部(中国工業情報化部)が“汚染業種”と言われる業界ごとに公害を引き起こしている企業名を公表する。これには、ブラッ クリスト認定することで、“改善が追いつかずに落伍した企業を淘汰”する狙いがある。今回の大気汚染問題でも、当局は103の企業をターゲットに絞り込 み、生産停止や拡張工事の指し止めなどを命じた。
 しかし、ブラックリスト方式は、もはや効果を発揮しない。なぜなら金銭で解決できてしまうからだ。ブラックリスト作成は「地元政府がお目こぼし料を請求するため」のものに過ぎなくなっている。
 罰金やお目こぼし料、中には環境局長が親族にコンサルを経営させ、摘発を免れる「コンサルタント料」など、中国の環境対策はほぼすべてが「金銭による解決」にとどまっている。
 果たして中国は、日本が歩んだ道をなぞることができるだろうか。
国民の意識の高まりに期待
 ただ、1つだけ期待できるものがあるとすれば、それは環境に対する「国民の意識の高まり」だ。
 中国国民はこれまで、環境問題の解決はまったくの国任せだった。環境や省エネ問題は「政府や企業が行うべきもの」という認識が強く、「個人の行動の重みと意義」に心を向けることはなかった。
 しかしここに来て、中国各地で抗議活動が増えてきている。過激な抗議活動のやり方は必ずしも支持できたものではないが、「環境問題は自分たちの手で」という意識は少しずつ高まってきているのだ。
 「万博世代」にも期待したい。上海万博には多くの若者がボランティアとして参加し、環境対策や社会貢献の意義を学んでいる。彼らは市民を動かす力を備えていると言ってもいいだろう。
 「日本がそうだったように、中国も国民が訴訟を繰り返せば変わる」――中国問題の専門家はこう唱える。確かに、日本の近代工業の発展は、住民の反対運動を受けて、社会と共存する方法を模索する歴史だったとも言える。
 現状では“民意不在”の中国がどこまで抜本的な改革を行えるかは未知数だと言わざるを得ない。だが、少なくとも隣国日本にはそのヒントがたくさん ある。大気に国境はない。日中間で政府、企業、市民レベルの互恵的交流をこれまで以上に促進し、「環境意識」を高めてもらいたいものだ。

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