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「尖閣諸島」危機の裏に戦後体制の負の遺産安倍新政権は、この危機を突破できるか

「尖閣諸島」危機の裏に戦後体制の負の遺産安倍新政権は、この危機を突破できるか
2013.02.18(月)  樋口 譲次
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37046

第1次安倍内閣のスローガンは「戦後レジームからの脱却」であった。歴代政権には見られない極めて根源的で、真摯な問いかけであると受け止めたところであった。
 昨年末の総選挙に勝利し、政権に返り咲いた自民党・安倍晋三総裁を首班とする第2次安倍内閣は「危機突破内閣」と銘打っている。
安倍新政権は、「尖閣諸島」の危機を突破できるか
 その公約には「戦後レジームからの脱却」の一丁目一番地である憲法改正が掲げられていることから、第1次安倍内閣の基本方向は引き継がれていくものと期待される。
 今日、中国によって仕掛けられた「尖閣諸島」を焦点とした我が国の防衛・沿岸(領域)警備の問題は、実は、GHQの日本非軍事化(非武装化)・弱体化の占領政策、すなわち戦後体制に端を発している。
 果たして、安倍新政権は、「戦後レジームからの脱却」を図り、「尖閣諸島」の危機を突破できるであろうか――。
我が国の沿岸(領域)警備体制の問題
GHQ(占領米軍)に厳しい制約を課せられた海上保安庁の生い立ち

 戦前、いわゆる沿岸警備(防備)については海軍が担任していた。敗戦占領とともに、占領米軍(GHQ)は、徹底した日本の非軍事化(非武装化)・弱体化を基本政策としたので、海軍も掃海部隊を除いてことごとく解体され、我が国は沿岸(領域)警備機能を喪失した。
 そのためか、周辺海域には海賊が出没し、昭和21(1946)年初夏頃から朝鮮半島より輸入感染症(コレラ)が上陸して猛威を振るった。背後に不法入国や密貿易が疑われるようになり、沿岸(領域)警備の必要性に対する認識が高まった。
 GHQは、米国沿岸警備隊(U.S.Coast Guard)をモデルに、洋上警備・救難及び交通の維持を任務とし、当時の運輸省(現国土交通省)の外局に文民組織としての海上保安庁を設立させることとした。
 しかし、GHQ民生局(ホイットニー准将)は、武装した海上保安機構の創設に反発したので、下記の6項目の制約を課して昭和23(1848)年5月1日に同庁を発足させた。
(1) 職員総数1万人を超えないこと
(2) 船艇25隻以下、総トン数5万トン未満
(3) 各船艇の排水量1500トン以下
(4) 速力15ノット未満
(5) 武装は海上保安官の小火器に限ること
(6) 活動範囲は日本沿岸の公海上に限ること
 また、GHQは、海上保安庁を文民組織とすることに固執したため、海上保安庁法第25条において、同庁は軍隊ではないとの規定を盛り込み、現在に至っている。
ここでも、憲法第9条で軍隊の保持を禁じ、現在の自衛隊を警察予備隊として発足させた占領米軍(GHQ)の日本非軍事化(非武装化)・弱体化の基本政策が強力に貫かれ、海上保安庁もその生い立ちから厳しい制約を課せられたのである。
海上保安庁法
第25条 この法律のいかなる規定も海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはならない。
 現在の海上保安庁の組織規模および装備は、おおよそ下記の通りであり、職員総数は当初よりあまり増員されていないが、装備や活動範囲の面では逐次拡充されてきた。
海上保安庁の組織規模・装備等(平成23=2011年4月1日現在)
(1) 職員総数:1万2636人
(2) 船艇:451隻(うち巡視船艇357隻)、航空機:73機(飛行機27機、ヘリ46機)
(3) 最大排水量:2000トン型高速高機能大型巡視船。なお、災害対応の3500トン型を保有
(4) 最大武装:40ミリ機関砲(ボフォース)
(5) 担任区域:領海、接続水域、排他的経済水域(EEZ)、日米SAR協定に基づく捜索救難区域(本土より南東1200海里程度)

活動範囲:当初、「港、湾、海峡その他の日本国の沿岸水域において」(制定時の海上保安庁法第1条第1項)と限定されていたが、後に改正されて単に「海上において」と規定され、活動範囲の限定を解除
我が国の管轄エリアをカバーする能力も、中国に対抗する能力も足りない海上保安庁
 問題の中国には、多数の海上保安機関がある。沿岸警備隊としての性格を有するのが中国公安辺防海警部隊(China Coast Guard、略称「中国海警」)である。
 尖閣諸島周辺に多数出没し、海上保安庁の船舶と対峙しているのは、国土資源部国家海洋局が所管する海監総隊所有の船舶で、海洋鉱物資源を担当して いる「海監」、そして農業部漁業局の所有する船舶で、漁業資源を担当し、日本の水産庁の漁業取締船に相当する「漁政」である。その他、交通部海事局の「海 巡」、海関総署緝私局の「海関」などがある。
 これら機関全体の保有船舶は約3000隻で、そのうち、近海や排他的経済水域(EEZ)をパトロールできるのは約250隻だと言われている。
 他方、海上保安庁の現有能力は船艇総数451隻であるが、大型巡視船は700トン以上のヘリコプター付大型巡視船(PLH型)13隻、700トン以上の大型巡視船(PL型)38隻、合わせて51隻である。
世界各国の海岸線の長さを比較すると、上位から(1)カナダ、(2)ノルウェー、(3)インドネシア、(4)ロシア、(5)フィリピン、(6)日 本、(7)オーストラリア、(8)米国、(9)ニュージーランド、(10)ギリシャ、(11)中国、(12)英国、(13)メキシコ、(14)インド、 (15)イタリア(以下省略)の順になっている。
 また、日本は、領土がすべて島(島嶼)で成り立っている多島・列島国家である。面積1平方キロメートル以上の島は本州、北海道、九州、四国の4大島を含めて341島、海岸線の長さが100メートル以上の島は6852島に及ぶ。
 そのうち、有人離島は432(6.3%)で、その他はすべて無人島(総数6415島、93.7%)である。そして、当然のことではあるが、我が国の領土問題は、北方4島、竹島そして尖閣諸島であり、すべて島(島嶼)に集中している。
 日本は、中国より長い海岸線を持つ国で、EEZを含めると世界第6位の管轄面積を有する。その沿岸(領域)警備を担任する海上保安庁の組織規模および装備などが弱体であることは、過去に北朝鮮工作船による多数の日本人拉致事件が発生した事実からも明らかである。
 また、中国が保有する能力に十分に対抗するにも無理があるのは衆人の認めるところであろう。
米国とは明らかに異なる事情下の日本
 他方、海上保安庁は、米国沿岸警備隊(U.S.Coast Guard)をモデルにしているが、米国と我が国の実状は明らかに異なる。
 米国の国防は、「9.11」を契機に国土安全保障を強化しているが、前方展開部隊を基盤として海外(領域外の遠方)でその目的を達成することを基 本としている。そのうえ、沿岸警備隊は、陸海空軍および海兵隊とともに第5軍(Armed Forces)の1つに数えられるほど、強力である。
 米国沿岸警備隊は、かつては連邦運輸局(Department of Transportation:DOT)に所属していたが、2003年1月に国土安全保障省(Department of Homeland Security:DHS)が発足したことに伴い、その隷下に置かれるようになった。
 しかし、これまでと同様、海上の安全確保などのほかに国防の任務を有しており、戦時には、大統領命令に基づいて海軍の指揮下に入り、米海軍をサ ポートするという沿岸警備隊の役割は変わっていない。その任務も、海上封鎖や平時の臨検にとどまらず、北大西洋条約機構(NATO)軍との連携行動まで含 まれている。
 他方、我が国は、専守防衛(戦略守勢)を基本政策としているため、直ちに脅威が国土領域に及ぶ。そのような安全保障環境の下で、海上保安庁は海上警備を担任する海上警察機関として「警察比例の原則」に抵触しない限度での能力保持に制限されている。
また、自衛隊の防衛出動や治安出動があった際、特に必要な場合には、自衛隊法第80条に基づき、海上保安庁は内閣総理大臣の命令により防衛大臣の指揮下に組み入れることが可能である。
 しかし、防衛大臣の指揮下に入った場合でも、その行動範囲や活動権限は、通常時(平時)と何ら変わらない。特に、武器の使用については、警察官職 務執行法に従わなければならないことから、あくまでも自衛隊施設などへの警備を手厚くするとか、自衛隊と海上保安庁の連携を円滑にする程度に止まるものと 見られている。
 また、法令の規定を見る限り、自衛隊法第80条は、海上保安庁法第25条と明らかに矛盾するのではないかとの指摘もある。
 そのためか、防衛大臣が海上保安庁を指揮するような本格的訓練は、今日まで、一度も行われたことがなく、有事に防衛大臣が海上保安庁を指揮するという現行法体系の実現性・実効性ははなはだ疑わしい。
沿岸(領域)警備に対する諸外国と我が国との認識の落差
 諸外国の沿岸(領域)警備のあり方は、国防あるいは国家安全保障を第一義的に捉えるものである。
 他方、我が国の場合、占領政策の非軍事化(非武装化)・弱体化によって国防あるいは安全保障の機能が極度に制限された。その戦後体制が今日までな お続き、沿岸(領域)警備は、一義的に警察機関が対応することになっているため、ただ単に警察機能(活動)として捉える傾向が強い。
 本来、沿岸(領域)警備には、国防と警察の2つの機能(活動)が必要である。そのため、列国の多くは、その役割を軍隊(国防軍)あるいは国境警備隊という準軍事組織に担わせている。
 国境地帯に軍隊を配備すると、隣接国との間で不要な猜疑心や緊張を招く恐れを考慮する必要がある、あるいは考慮しなければならない国などは、後者を選択している場合が多い。
 いずれにしても、我が国は、島国で、比較的、国外からの脅威に晒される機会の少なかった歴史と戦後の占領政策によって、沿岸(領域)警備を国防あるいは安全保障として捉える意識が希薄である。
 つまり、沿岸(領域)警備を強化するには、その観点を最も重視して見直さない限り根本的な解決にはなり得ないのである。
我が国沿岸(領域)警備体制の強化策
 我が国の沿岸(領域)警備の強化策には3つのオプションがある。
 第1は、海上保安庁の組織規模や装備を強化し、準軍事組織に制度変更することである。
 しかし、同庁は、あくまで海面上、すなわち2次元の能力に限定され、今日の沿岸(領域)警備に求められる3次元の対応能力は保有していない。結局、空域は航空自衛隊に、海中は海上自衛隊に頼らざるを得ない。
 第2は、自衛隊に領域(沿岸)警備の任務を付与することである。
 新しい任務を付与するからには自衛隊の増勢が必要になるが、自衛隊は固有の基本機能をもって3次元(立体的)にわたり、一体的にその任務を遂行することができる。この際、警察機能は、あくまで海上保安庁が担任し、両者が密接に連携して活動する。
 また、自衛隊の任務遂行における武器の使用などについては、あらかじめ武器使用規定(Rules for Use of Force)あるいは交戦規定(Rules of Engagement : ROE)を明示して政府の対処方針を現場に徹底することが重要である。
 第3は、上記2つのオプション、すなわち海上保安庁の強化と自衛隊に対する領域(沿岸)警備任務の付与を同時に行うものである。
 この際、海上保安庁と海上自衛隊の役割分担を明確にする必要があるが、平・有事を通じて両組織の力を統合的に発揮させ、我が国の広大な管轄エリアを実効的にカバーするとともに、中国に対抗する能力を確保できる最も有力な対策となる。
 以上、いずれのオプションを選択する場合にも、次の3点を併せて施策することが重要である。
 まず初めに、直ちに実行可能な関係諸機関の連携強化に着手することである。
 韓国は、1996年9月に発生した北朝鮮の潜水艦による武装ゲリラと潜水艦乗組員の領海・領土侵入事案(江陵事案)が発生したのを契機に、「統合防衛法」(1997年6月)を制定した。
 「統合防衛法」は、国家が保有する防衛機能を統合し、指揮体制を一元化して国家を防衛するための組織の設置、事態の区分、政府・自治体の権限などを規定している。
 本法令の下、(1)陸海空軍、(2)警察及び海洋警察、(3)(軍と警察、海洋警察を除く)国家機関および地方自治体、(4)郷土予備軍、(5) 民防衛隊、(6)統合防衛協議会を置いている職場の6国防関連諸組織をすべて動員し、外的の侵入、挑発などに一体的に対処できるような仕組みを整えてい る。
 我が国は、早急に、現行法令に基づき、防衛出動・治安出動時に「海上保安庁の全部又は一部を防衛大臣が海上保安庁を統制下に入れることができる」 (自衛隊法第80条)体制の実効性を高めること基本に、海上自衛隊と海上保安庁の合同訓練を行うなど、有機的かつ一体的に共同行動がとれる体制を整えるこ とが必要である。
 そのうえで、例えば、韓国の「統合防衛法」に類似する法制を整備し、領域(沿岸)警備に関係する諸機関の連携を強化して、国を挙げた警備体制の確立が望まれる。
 第2は、外国船舶による我が国領海内の無害でない通航に厳格に対処するよう、法令を整備することである。
 我が国の「領海及び接続水域に関する法律」(「領海法」)には、外国船舶の無害通航に関する規定がない。その不備を補うため、「領海等における外国船舶の航行に関する法律」(「領海外国船舶航行法」、最終改正:平成24年9月5日)が制定された。
 しかし、付与されている権限は、外国船舶が避難や人命救助などの正当な理由がなく日本領海内にとどまることを禁止し、不審船に対して海上保安庁が立ち入り検査を行い、違反行為があれば退去命令を出せることに限られている。
 また、法律の適用対象から、軍艦及び各国政府が所有し又は運航する船舶であって非商業的目的のみに使用されるものを除外しており、至って間の抜けた、緩やかな規定になっている。
 例えば、ロシアは、民間船舶への対応はもちろんであるが、「領水・内水・接続水域法第19条は、領水(12海里)、内水(河川、湖、港、入江、潟)、港湾でロシア連邦法に違反した外国軍艦に対する国境警備軍の対応を規定している。
 こうした軍艦に対しては、法令の順守を要求し、それに従わない場合、速やかに退去を要求するとしている。
 さらに、外国軍艦が、ロシアの軍艦、船舶、航空機、国民に対して武器を使用した場合には、国境法第35条に基づいて攻撃を撃退するための報復措置 (自衛措置)を明確に規定している」(高井晋他5氏の共同執筆論文「諸外国の領域警備制度」)とあるように、軍艦(公船)に対しても明確かつ厳格な姿勢を 打ち出している。
 このように、我が国も、外国の諸法規などを参考例として「領海法」などを改正し、自国の領海における外国船舶による無害通航とそうでない通航を明 確に仕分け、外国船舶による情報収集や調査活動、中国のように公船をもって意図的に領海侵犯を繰り返す場合など、我が国の防衛あるいは安全保障に係わる無 害でない通航に該当する場合の措置を、具体的かつ厳格に規定する必要があろう。
 第3は、海上(沿岸)・航空から陸上まで隙のない警備体制を確立する必要がある。
 我が国に対する脅威は、「9.11」のような空からの脅威、また北朝鮮による日本人拉致のような海を経由した脅威、そしてオウム真理教による地下鉄サリン事件のような国内から発した脅威などが起こり得る。
 この場合、例えば、敵のゲリラ・コマンド部隊が、工作船舶(潜水艇を含む)などを利用して我が国の沿岸(領域)警備態勢をかい潜って上陸し、目標とする重要施設の破壊や民生の擾乱活動を行うなどの事態の生起を完全に食い止めることは困難である。
 また、近年、これらの脅威は、「テロ」なのか「ゲリラ・コマンド攻撃」なのか、当初から判別することは難しく、また手段や方法などにおいて一般の警察力をもっては対処できない事態が多くなっている。
 そのため、ロシアは、準軍隊の1つである内務省国内軍のなかに重要国家施設・特別貨物警備部隊を保有し、日常的に、原子力エネルギー使用施設(核プラント、核物質または放射線物質を取り扱う組織)など、連邦政府が重要国家施設と規定した施設の警備任務を付与している。
 我が国も、そのような事態に備え、ロシアなどの例を参考として、平時から、陸上における原子力発電所等の重要施設を警備(防護)する制度を創設し、海上(沿岸)・航空から陸上まで隙のない警備体制を確立する必要がある。
おわりに
 我が国に発生している諸問題を突き詰めていくと、現行憲法を中心としたいわゆる戦後体制の継続とその拘束によって、21世紀の激動・激変する内外情勢に適応できず、深刻な閉塞状態に陥っている実態に打ち当たる。
 中国によって突き付けられている「尖閣諸島」を焦点とした南西諸島の防衛・警備の問題もまた然りである。
 その意味で、第1次安倍内閣が掲げた「戦後レジームからの脱却」の本丸である憲法改正は、もはや一刻の猶予も許されない。しかし、我が国政治の実情を見る限り、それが所期の通りに進展するかというと、残念ながら悲観的にならざるを得ない。
 結局、当面する内外の危機に対し、戦後体制の拘束の中でもがき苦しみながら、憲法改正のデッドラインが差し迫って、ようやく政治も国民も事の重大性に気付くのではないかと憂慮されてならない。いかんせん、それでは遅すぎるのである。
 ともあれ、憲法改正が急速に進展しないと見られる状況下で、安倍新政権には、常に「戦後レジームからの脱却」の基本方向を堅持しつつ、「危機突破内閣」として当面する幾多の危機を敢然と乗り越えるよう、期待するほかないのであろう。

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