「朴氏の韓国」の安保認識を問う 防衛大学校教授・倉田秀也


【正論】
「朴氏の韓国」の安保認識を問う 防衛大学校教授・倉田秀也
2013.12.10 03:07 [正論]
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/131210/plc13121003310005-n1.htm
防衛大学校教授・倉田秀也


 先月、ソウルで行われた日韓防衛次官会談の後、韓国の白承周国防次官は記者会見で、「憲法改正や集団的自衛権(の行使)などよりも、周辺国から政治、軍事的信頼を得ることが日本の安保を強化させる道だ」と述べたという。これに限らず、韓国では、歴史認識を掲げて日本の自衛隊の活動を牽制(けんせい)する議論が横行している。

 ≪忘れ去られたか「韓国条項」≫

 集団的自衛権行使に関する政府解釈については帰趨(きすう)を見守るとして、問題はそれ以前にある。国家間関係に「正邪」の価値観を持ち込むことを自戒しつつ、「正しい歴史認識」を日本に求める朴槿恵氏の韓国にあえて問う。では韓国の安保認識は「正しい」か。

 そもそも、半島国家韓国は三方を海で囲まれているうえ、在韓米軍は海軍、海兵隊とも実戦部隊を擁しない。韓国が「戦時」に陥れば、増員のための発進基地は在日米軍となり、在韓米軍と一体となって作戦を行う。1960年代後半、沖縄返還交渉で米国が懸念したのは、それまで「自由使用」できた沖縄の米軍基地が日米安保条約の適用を受け、事前協議の対象となることだった。韓国「戦時」に際し、在日米軍基地が戦闘行動の発進基地となることに日本が「ノー」と言えば、米国は韓国への展開を阻まれることになる。

 これは、米国の懸念であると同時に韓国の懸念であったに違いない。事実、韓国は沖縄返還交渉の経過を定期的に連絡することのみならず、沖縄の本土復帰の際、事前協議の権利を放棄することさえ要求していた。米韓両国が共有する懸念を払拭することこそ、韓国の安全保障との関連で日本に課せられた最初の責任であった。

 だからこそ、佐藤栄作首相は、沖縄返還に合意した日米共同声明(69年11月21日)で「韓国の安全は日本自身の安全に緊要である」と述べるとともに、同日の米ナショナルプレスクラブでの演説で事前協議に「前向きかつ速やかに」対応すると語ったのである。

 ≪日本は後方基地と金大中氏≫

 日本が初めて韓国の安全保障に責任を果たすことを闡明(せんめい)した共同声明の一文は、「韓国条項」として知られることになる。これが米国はもとより韓国でも高く評価されたのはいうまでもない。当時の崔圭夏外務部長官(外相)は「韓国条項」には「韓国の主張がかなり反映された」とし、「戦時」に在日米軍の展開が妨げられないことに安堵感を吐露していた。

 冷戦終結後、「韓国条項」が日米間で公式に再確認されたことはないが、90年代前半に、韓国「戦時」の淵(ふち)を覗(のぞ)かせられた、「核危機」の後、日米間で立て続けに進められた日米防衛協力のための指針(ガイドライン)改定、周辺事態安全確保法などは「韓国条項」の延長線上にあった。もはや韓国「戦時」における日本の責任は、在日米軍の韓国への展開の成否云々を超え、展開をいかに有効に支援するかにあったのである。

 韓国が「戦時」の自衛隊活動に懸念を表しなかったわけでない。だが、時の韓国大統領は北朝鮮からの脅威が高まれば、その分日米韓3カ国間の協調の必要性もまた高まることを知悉(ちしつ)していた。

 2002年6月、韓国海軍に死者5人を出した黄海での北朝鮮海軍との銃撃戦の余韻冷めやらぬ翌月、金大中大統領は「日本という後方基地、協力してくれる国があることが、どれほど韓国の大きな助けになるか」と語っていた。韓国が北朝鮮の対南武力行使の懸念を抱えている以上、韓国「戦時」において、在韓米軍が在日米軍と一体化して作戦を遂行し、自衛隊が在日米軍の展開を支援する力学は何ら変わるところはない。

 ≪自衛隊活動を制する論理矛盾≫

 これは「戦時」作戦統制権の韓国への返還という米韓間の懸案にも深く関わる。盧武鉉政権期、韓国軍はいったん米国との間で「戦時」作戦統制権の12年4月返還に合意したものの、後継の李明博政権の要請で15年末に延期した。就任演説で北朝鮮の脅威に「確実な抑止力」で対応すると表明した次の朴槿恵大統領はさらなる延期を申し入れた。朴氏は韓国「戦時」において在韓米軍司令官が韓国軍に対する作戦統制権を掌握し続けることを望んだことになる。

 「同盟は騎士と馬の関係」-。かつてドイツの宰相ビスマルクはこう述べた。誤解を恐れずにこの比喩を使うなら、韓国「戦時」において、「騎士」となるのはあくまで米軍であり、韓国軍でも自衛隊でもない。在韓米軍に「戦時」作戦統制権の返還延期を申し入れながら、在日米軍の展開を支援する自衛隊の活動を牽制するというのは、論理矛盾ではないか。

 ましてや、張成沢・国防副委員長の失脚で北朝鮮の強硬路線への傾斜が懸念される今、韓国が「確実な抑止力」を標榜する一方で、米軍の展開を軸に日米韓3カ国関係の文脈で議論されるべき問題から、日韓関係だけを切り取り、そこに歴史認識を持ち込むことは、認識の混濁とも言えないか。

 それが韓国を利するとは思えない。北朝鮮の金正恩第1書記の高笑いが聞こえてくるようだ。(くらた ひでや)
関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

最新記事
プロフィール

tourokurad

Author:tourokurad
FC2ブログへようこそ!

最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
政治・経済
627位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
政治活動
281位
アクセスランキングを見る>>
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR