序章にすぎない中国防空圏設定

コラム:序章にすぎない中国防空圏設定
2013年 12月 10日 18:12 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE9B906620131210?pageNumber=1&virtualBrandChannel=0

国際政治学者イアン・ブレマー
中国が 尖閣諸島(中国名・釣魚島)の上空を含む空域に防空識別圏を設定し、東シナ海は冷戦時代を彷彿(ほうふつ)とさせる衝突の局面に突入した。日米両政府は中 国側の主張を認めず、米軍機と自衛隊機が中国への通告なしに同空域を飛行、中国軍は戦闘機で緊急発進(スクランブル)をかけたと発表している。
しかし、これは中国の 度を越した行動が裏目に出ているという単純な図式ではない。また、メディアが報じるような中国側の予期せぬ突然の行動という訳でもない。むしろ、中国の長 年にわたる地域戦略の意思表示が始まったに過ぎないことを意味している。そして中国は、ここまでの展開に極めて満足している可能性が高い。
中国は 過去何年も、地域の安全保障に関する現状を変更し、自国の利益を拡大できるチャンスを虎視眈々と狙ってきた。日本で野田政権が尖閣諸島の国有化を決めた 2012年の夏以降は、中国側は日中間の不安定な均衡が変化したことを嗅ぎ取っていた。中国が力による現状変更を試みるのは時間の問題だったのだ。
その観点からすれば、中国が仕掛けたタイミングは、少なくとも、米国がどう反応するかという点に関しては賢明とさえ言える。相対的には対中強硬派だったクリントン前国務長官とキャンベル国務次官補は、2期目のオバマ政 権スタート時に外交の表舞台を去った。オバマ大統領は、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の欠席を余儀なくされた米政府機関閉鎖など、一連の 内政問題でつまずいて支持率が過去最低水準に沈んだ。米政権が来年4月のオバマ大統領アジア歴訪を発表し、ロック駐中国大使が個人的な理由で来年に辞任す ると発表したのは、中国が引き金に手をかけた矢先だった。その一方で、中国の王毅外相は、イラン核問題への対応で手一杯だったケリー米国務長官とともにジュネーブにおり、同問題での歴史的合意に向け建設的な役割を果たしていた。米国が強い態度に出られない「好機」があるとすれば、まさにこのタイミングしかなかった。
中国にとって、主だった長期的な地域戦略を前進させるための機は熟したと言える。その中心には、日米間にくさびを打ち込み、日本を孤立化させることも含まれている。
中国の防空識別圏設定をめぐる日米両国の対応は、米軍がすぐさまB52戦略爆撃機2機を尖閣上空に飛ばすなど、当初は完璧な連携が取れているように見えた。
しかし、その後の一連の動きは、中国に防空識別圏設定は実り多い手段だと思わせるに十分だ。米国務省と連邦航空局(FAA)は、問題の 空域を飛行する米民間航空会社の懸念に配慮し、東シナ海上空での飛行計画を中国当局に提出するよう勧告した。この方針が発表されたのは、日本の外務省が国 内航空各社に中国政府への飛行計画提出に応じないよう言明した直後だった。FAAの決定は官僚的手続きによるものだろうが、これ以上の緊迫化を望まないホ ワイトハウスもそれを受け入れた格好だ。米政権は、同空域での爆撃機飛行と、中国側の主張を公式に否定したことで、日米同盟をすでに守ったと考えている節 がある。
もともと予定されていたバイデン副大統領の日中韓歴訪は、何が言及されたかではなく、むしろ何が言及されなかったかを通じ、中国が有利な立場にいることが垣間見えてくる。最初に訪問した日本では、バイデン副大統領は防空識別圏をめぐる懸念を安倍首相と 共有した。次に訪れた中国での5時間に及ぶ習近平国家主席との会談では、両者とも防空識別圏には直接言及せず、その代わりにバイデン副大統領は米中関係の 重要性や「率直さ」と「信頼」の必要性に言及した。このことは、米国が対中問題に手を突っ込んで対立をエスカレートさせるのではなく、むしろ仲裁役に徹し ようとしている姿勢を如実に示している。
結局のところ、米国は中国の 防空識別圏設定に繰り返し異を唱えているが、中国側にそれを撤回させるほどの迫力はない。また中国政府は日本の要求に従って防空識別圏を白紙に戻し、国内 で政権基盤を弱めるリスクを負う訳にはいかない。米国は、中国に白紙撤回を求めることは事態を悪化させるだけだと気付いている。中国にとってみれば、それ は勝利を意味する。バイデン副大統領の日中韓歴訪は、米国が日中間の調停者として動くという「新たな現状」をより強固なものにした。米国は調停者を演じる ことで、領有権問題をめぐる中国の新たな主張が国際社会に浸透していくことを許している。
中国の こうした戦術は、われわれは別の場所でも目にしたことがある。全体的な戦略的アプローチは、中国政府の長年にわたる台湾政策によく似ている。中国は政治的 な脅しや経済的インセンティブを使い、世界中で台湾に対する支持を封じ込めてきた。数十年を要したが、最終的には台湾問題は中国に有利に動いている。中国 は過去何年も、台湾をめぐる緊張が米国との戦争の引き金になりかねないと主張してきた。諸外国の台湾を支持する声が小さくなり、経済から政治へと段階的に 台湾を大陸に統合させる案が浮上したことで、中国は最終的に勝利を手にしたと言える。
防空識別圏設定とその後の動きは、東シナ海で勝ち抜くための安保上のポジションを手に入れるようとする中国の 意図を浮き彫りにしている。そして中国は、地域の安保上および経済的なパワーバランスが自国に有利に傾いている今、それをより速いスピードで進めようとし ている。防空識別圏設定に対し、オーストラリア政府は駐キャンベラ中国大使を呼んで懸念を表明したが、中国はそれにも激しく反発した。オーストラリア経済 に対する中国の影響力を考えれば、中国政府は米国に対するよりも強硬な態度でオーストラリアとの2国間関係に臨むことができた。
中国は、 米軍爆撃機による尖閣上空飛行に行動を示さなかったことで、メンツはややつぶされたかもしれない。しかし、中国政府の長期的戦略を採点するなら、高得点を 付けざるを得ないのも事実だ。中国の周辺国が米国との連携を強め、中国政府の高圧的態度が裏目に出るリスクはある。中国の行動により、日本の安倍首相は 防衛力強化につながる憲法改正に動きやすくもなるだろう(最新の世論調査でも国民の多くが賛成していないが)。しかし、中国が各国との外交関係でアメとム チを使い分け、それぞれの国への影響力に応じて硬軟織り交ぜた戦略を続けていくなら、最終的なゴールに向けた障害は徐々に取り除かれていく可能性は高い。 ここで言うゴールとは、中国が尖閣諸島を自国の核心的利益として手に入れることに他ならない。
東シナ海での衝突は、国際秩序と世界経済に対する最大の潜在的危険要素であり続ける。差し当たり中国は、現状変更に向けた次なる好機到来をうかがっているのだろう。
(9日 ロイター)
*筆者は国際政治リスク分析を専門とするコンサルティング会社、ユーラシア・グループの社長。スタンフォード大学で博士号(政治学)取 得後、フーバー研究所の研究員に最年少で就任。その後、コロンビア大学、東西研究所、ローレンス・リバモア国立研究所などを経て、現在に至る。全米でベス トセラーとなった「The End oftheFreeMarket」(邦訳は『自由市場の終焉 国家資本主義とどう闘うか』など著書多数。

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