第47回 国が謝るとき

訪米中の安倍晋三首相に対する、韓国のストーカー行為は、韓国にとっては、聖戦であると言う。
日本人から見て、執拗さは目に余る状況である。



第47回
国が謝るとき

国際問題評論家 古森 義久氏
2007年4月24日
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/i/47/index.html

 米国議会が慰安婦問題で日本の首相や政府に謝罪を求める決議案を審議するようになった。安倍晋三首相は訪米に臨み、懸命な対応に努めているようだ。だが 決議案が要求するような謝罪を表明すべきか、否か。そもそも一つの主権国家の政府や首相が対外的に謝るという行為はいったいなにを意味するのか。
 国家が謝罪するとはなんなのか。慰安婦問題でまた浮上した「謝罪」について、その基本を考えてみることも必要だろう。
 国家には当然ながら多様な機能や活動がある。戦う。負ける。弾圧する。降伏する。滅びる。妥協する。賠償する。悲しむ。喜ぶ。
 以上のような、それぞれの現象は国民や民族の公の集団としての主権国家の動きとして、想像がつく。意味が分かる。
 だが国が謝る、というのは、なにを指し、なにを果たすのか。解答は急に難しくなる。
 国家の謝罪というのは国としての一定の言葉の表明である。言葉を通じて、遺憾や痛恨の意を表し、反省を述べ、過誤を認める。相手への同情や贖罪(しょく ざい)の意を表す。だが降伏とも、屈服とも、賠償とも異なる。降伏や賠償が具体的な行動を指すのに対し、謝罪は単に言葉の表明だけでもありうるからだ。
国家は簡単に謝らない
 現実の世界では国家が謝罪を表明するというのは意外と珍しい。特に対外的な謝罪の表明は少ない。
 米国がフィリピンを植民地にしていたことは歴史的な事実だ。植民地支配が現代の倫理で悪なことも現実である。だが米国政府はフィリピンの統治について謝 罪はしていない。日本の広島と長崎への原爆投下も人道主義の観点からは邪悪な行為だろう。だが歴代の米国大統領は決して日本に原爆投下の謝罪はしていな い。残酷な戦争の終わりを早めるために、むしろ必要だったという正当化の言葉を歴代大統領たちは明確に述べている。
 米国の政府は国内での奴隷制について被害者の黒人たちに謝罪をしたということもない。原住民だったアメリカインディアンに謝ったこともない。個別のケースでの遺憾の意の表明や賠償の支払いはあっても、主権国家として政府から黒人やインディアンへの全体の謝罪はない。
 英国がインドやビルマ(現ミャンマー)の植民地支配を政府として謝ったという話も聞かない。フランスがベトナムやカンボジアの植民地統治を謝罪したこともない。
 要するに国家はそう簡単には謝らないのである。
 人間集団の謝罪や許容について学問的に研究している米国ハーバード大学のマーサ・ミノー教授は以下のように解説している。
 「人間の集団と集団、あるいは集団と個人の間での公式の謝罪という考え方は1980年代以前は米国でも、あるいは国際的にも、ほとんど提起されることがなかった。つまり国家から国家へ、国家から個人へ、という関係での謝罪という行為は現実にはまずなかったのだ」。
 要するに国家が「ごめんなさい」とか「すみません」という言葉を述べることはなかった、というのである。ところがこの基本が1980年代から90年代にかけて、かなり変わってきたという。
80年代になって謝罪するようになった理由
 レーガン大統領も先代のブッシュ大統領も日系米人の戦時中の集団収容に謝罪した。クリントン大統領が米国のハワイ武力制圧を謝った。同大統領はさらに戦前、黒人男性600余人が公立研究施設で梅毒治療の人体実験に使われたことに謝罪した。
 ドイツ政府はユダヤ人虐殺やチェコ侵攻を謝った。英国のブレア首相がアイルランドの「ジャガイモ飢饉」への自国政府の責任欠落を謝った。スイス政府は自 国内のジプシーの子どもたちの強制集団養育を謝った。ローマ法王はユダヤ人や非キリスト教徒の虐待を謝罪した。実例はまだ多数ある。
 数多くの主権国家が1980年代に入って謝罪をするようになった理由は、ミノー教授らの分析によると、民主主義の深化と拡大であり、テレビなどマスコミュニケーションの発達だという。
 民主主義の成長は国家を国民と一体にさせた。両者の距離は減り、国家指導者の顔や声は国民一般にとって身近となった。政府が人間らしくなったのだ。ソ連 や東欧の共産主義独裁政権が倒れたのは好例である。国民を弾圧する専制政権が崩れて、国民の心を代弁する民主政権が登場した。そして過去の政府の罪悪をま ず国民に謝罪するところから新たな出発が始まった。この変化をテレビのようなマスコミの発達が大いに触発し、増強し、拡大したわけである。
 しかしそれでもなお現代の主権国家はそう簡単には謝らない。対外的な謝罪となるとなおさらで、米国は特にその傾向が強い。戦争で負けたことがないという 実績が他国からみれば独善とも映る傾向を強めるのだろう。奴隷制にしても、もし米国政府が謝罪すれば、その謝罪はアフリカ諸国に向けられたことともなりか ねない。そのへんの米国の謝罪拒否について米国ウェスリアン大学のアシュラフ・ラシュディ教授は次のように語る。同教授は『罪ある時代の謝罪と忘却』とい う書の著者である。
 「対外的な謝罪は無意味に終わる場合が多いのだ。クリントン大統領が1998年にルワンダ大虐殺に対して米国が阻止の行動をとらなかったことを謝罪した が、その後の各地での虐殺になんの影響もなかった。謝罪は相手の許しを前提とするため、その謝罪のそもそもの原因となった行為の真の責任を曖昧にするマイ ナスの効果もある。さらには謝罪によって過去の歴史を一般に忘れさせるという結果も歓迎すべきかどうか、分からない」。
謝罪にネガティブな米国
 米国ではそもそも自分たちが生きてはいなかった遠い過去の出来事に責任を負って、謝るという行為への抵抗が強い。リベラル派の政治評論家のリチャード・コーエン氏が奴隷制への謝罪の適否を論じて、以下のように主張していた。
 「自分たちがなんのコントロールも持ちえなかった過去の行動や政策に対し、いまその罪を受け入れることはできない」。
 この言は、今、日本に慰安婦問題で謝罪の表明を求める米国議会のマイク・ホンダ議員らにそのまま突きつけたいところである。
 米国ではこのように国家の謝罪という概念に対してネガティブな反応が強いのだ。特に対外的な謝罪への拒否反応が強いといえる。その理由としては次のような諸点がよく指摘される。
 「過去の行動への国家としての謝罪は国際的に自国の立場を低くする自己卑下につながる」。
 「国家の謝罪は現在の自国民の自国への誇りを減らす危険がある」。
 「国家としての過去の出来事への謝罪はもはや自己を弁護できない自国の先祖の名声、そして未来の世代の名声のいずれをも傷つける危険がある」。
 米国のこうした思考や感覚からすれば、首相や政府が毎年のように対外的な謝罪を続けている日本の言動は当然、異質と映るだろう。
 その「米国からみた日本の謝罪」は『第二次大戦への日本の謝罪』という学術書に集約されている。2006年はじめに米国で出版された同書の著者はジェーン・ヤマザキという女性の新進日本研究学者である。
中国や韓国への謝罪は不毛だったのか
 ヤマザキ氏はミシガン州のオークランド大学の講師で、夫が日系人だが、本人は欧州系の白人である。2002年に同州のウェイン州立大学で日本現代史研究の博士号を取得し、日本での研究や留学の期間も長い。
 『第二次大戦への日本の謝罪』は日本が1965年の日韓国交正常化以来、国家レベルで表明してきた各種の謝罪の内容をすべてすくい上げ、紹介している。 日本の「過去の戦争、侵略、植民地支配」に関する天皇、首相、閣僚らによる謝罪をリストアップして、英訳しているのだが、総括として次のように日本の特殊 性を強調していた。
 「主権国家が過去の自国の間違いや悪事をこれほどに認め、対外的に謝ることは国際的にみて、きわめて珍しい」。
 「現代の国際社会では国家は原則として対外的には謝罪しないことが普通であり、大多数の国家は日本とは反対に、過去の過誤を正当化し、道義上の欠陥も認めない」。
 ヤマザキ氏が紹介する「国際基準」に従えば、日本の場合、明らかに国家謝罪のしすぎ、ということになる。事実、同氏の書は日本のこれほどの謝罪努力も「失敗」と断じている。日本側にとってはなんとも痛い結論である。
 だが客観的にみても、日本の謝罪は、少なくとも成功ではないことはあまりに明白であろう。これほど国家謝罪を重ねてみても、なお「日本は十分に謝罪して いない」という非難の矢が数多くの方面から放たれているからだ。国家謝罪が目的とする中国や韓国との関係も完全には改善されていない。日本側の謝罪の所期 の目的は達成されていないのだ。
 ヤマザキ氏は次の点をも指摘する。
 「謝罪が成功するには謝罪の受け手がそれを受け入れる用意があることが不可欠なのに、中国や韓国の側にはそもそも日本の謝罪を受け入れる意思がなく、歴史問題で日本と和解する意図もないといえる」。
 だから日本の長年にわたる国家謝罪も不毛の努力だった、ということになってしまうようだ。

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