安保「進展」でも変わらぬ自衛官軽視という病


安保「進展」でも変わらぬ自衛官軽視という病
『月刊正論』 2014年7月号
http://ironna.jp/article/1720?p=2

柿谷勲夫(軍事評論家)

防大卒業式訓示に見た安倍首相の本気度

  4月下旬に来日したオバマ大統領は、アメリカの大統領として初めて尖閣諸島の防衛義務を明言し、集団的自衛権の行使についても我が国の検討を歓迎、支持を 表明、日米共同声明でも同趣旨の文言を明記しました。安倍晋三首相の防衛に関する確固たる信念がこれを後押ししたことは間違いありません。来日1カ月前の 3月22日、安倍首相は防衛大学校の卒業式で、外国の駐在武官をはじめ内外の来賓、家族、留学生を前に卒業生に行った訓示は、私の防大の学生、教官時代を 通じて例をみない情熱に溢れた充実した内容でした。

  いずれの国においても、大統領など軍の最高指揮官の士官学校での訓示は、国防に関する施政方針演説と位置付けられており、安倍首相が何を語るかを外国の指 導者や軍関係者は注目していたことでしょう。無関心だったのは我が国の政治家だけだったかも知れません。訓示の内容を紙面の関係で全てを紹介できません が、主要部分を抜粋すれば次の通りです。

《内閣総理大臣、そして自衛隊の最高指揮官として、一言申し上げさせていただきます。
  今日は、22日。15年前の11月、中川尋史空将補と、門屋義廣一等空佐が殉職したのは、22日でありました。まずは、諸君と共に、お二人の御冥福を心よ りお祈りしたいと思います。突然のトラブルにより、急速に高度を下げるT33A。この自衛隊機から、緊急脱出を告げる声が、入間タワーに届きました。 「ベール・アウト」、しかし、そこから20秒間。事故の直前まで、二人は脱出せず、機中に残りました。
  眼下に広がる、狭山市の住宅街。何としてでも、住宅街への墜落を避け、入間川の河川敷へ事故機を操縦する。五千時間を超える飛行経験、それまでの自衛官人 生の全てを懸けて、最後の瞬間まで、国民の命を守ろうとしました。…自衛隊員としての強い使命感と責任感を、私たちに示してくれたと思います。「雪中の松 柏、いよいよ青々たり」…
 今ほど、自衛隊が、国民から信頼され、頼りにされている時代は、かつてなかったのではないでしょうか。…自衛隊を頼りにするのは、今や、日本だけではありません。…
 日本を取り巻く現実は、一層、厳しさを増しています。緊張感の高い現場で、今この瞬間も、士気高く任務にあたる自衛隊員の姿は、私の誇りであります。
 南西の海では主権に対する挑発も相次いでいます。北朝鮮による大量破壊兵器や弾道ミサイルの脅威も深刻さを増しています。
 日本近海の公海上において、ミサイル防衛のため警戒にあたる、米国のイージス艦が攻撃を受けるかもしれない。これは、机上の空論ではありません。現実に起こり得る事態です。その時に、日本は何もできない、ということで、本当によいのか。…
  平和国家という言葉を口で唱えるだけで、平和が得られるわけでもありません。もはや、現実から目を背け、建前論に終始している余裕もありません。必要なこ とは、現実に即した具体的な行動論と、そのための法的基盤の整備。それだけです。私は、現実を踏まえた、安全保障政策の立て直しを進めてまいります。…
 最高指揮官として、大切なお子さんを自衛隊に送り出してくださった皆さんに、この場を借りて、心から感謝申し上げたいと思います。お預かりする以上、しっかりと任務が遂行できるよう万全を期し、皆さんが誇れるような自衛官に育てあげることをお約束いたします》

  全世界に向かって集団的自衛権行使の容認を明言し、行使の主体となる自衛官の15年前の行為を称え、卒業生に覚悟を促し、家族に敬意を表したこの訓示は、 歴史に残るでしょう。私はこの名演説に接し、15年前の自衛官に対する「加害者としての非難」と85年前の軍人に対する「英雄としての美談」を思い出しま した。

 狭山の墜落事故翌日の平成 11年11月23日付朝日新聞は「空自機墜落、高圧線切る」「交通・ATM乱れる」「その時、街が止まった」「信号が消え、改札口は閉じたまま、手術も中 断」「吸入器停止、2人病院へ」などと自衛隊を非難する見出しだけを並べ、自らを犠牲にして住民を守った二人の自衛官に対する敬意や哀悼の意の表明はあり ませんでした。
身を低く構え、離島に上陸する訓練に臨む陸上自衛官隊員=2014年5月、鹿児島県・奄美大島の江仁屋離島

  当時の互力防衛庁長官は「高圧電線を切断し広範囲に停電させたこととあわせ、誠に遺憾で関係省庁に迷惑をかけたことをおわびする」(24日付朝日新聞夕 刊)と陳謝し、葬送式を欠席しました。また、ある商店主が「我々は命懸けで商売をしているのに停電で迷惑した」と非難している場面を放映したテレビがあり ました。私は思わず画面に向かって「命を懸けたのは自衛官だ、お前は生きているではないか」と、叫びました。

  中川二佐(事故当時)は将補に、門屋三佐(同)は一佐に、二階級特別昇進しました。平成8年、ペルーの日本大使公邸がテロリストに占拠された事件は、翌9 年にペルー軍が突入して解決されました。このとき戦死した中佐は大佐に昇進、日本政府は勲三等旭日中綬章を授与しました。中川将補と門屋一佐には、殉職か ら1年後、ともに勲四等瑞宝章が授与されました。自衛官に授与する勲章が外国軍人に授与するものよりも格段に下とは不思議です。

 事故から15年経って、防大卒業式訓示の冒頭で殉職者に対し哀悼の辞を述べたことに対し、亡くなった二人のパイロットは叙勲以上の感銘を受けたものと推察します。しかし、安倍首相の訓示を卒業式当日放映したNHKも翌日報じた全国紙も、なぜか、冒頭部分を無視しました。

 昭和4年、空中戦闘法研究のため、英国留学中の小林淑人海軍大尉の飛行訓練中に類似の事態が生じました。その状況を真珠湾攻撃の機動部隊の航空参謀、のちに航空幕僚長を務めた源田實氏の著書『海軍航空隊始末記』(昭和36年 文藝春秋新社)から紹介します。

《ある日、戰闘機シスキンに搭乘して、上昇スピンの訓練をやっていたが、突如として、發動機から火を噴き出した。直ちに、落下傘降下を企圖したが、下方を見ると、丁度運惡く、人家の集團があった。…
  大尉は飛行機の姿勢を維持しながら、數分間の水平飛行を續けた。操縦席の中に、災が入って來た。操縦桿を持つ右手、スロットルを持つ左手、共に手袋を通し て皮膚が燒けただれた。飛行帽の下の眉毛は燒け落ちた。それでも、大尉は齒を喰いしばって我慢した。やがて、前方に原野が開けて來た。…バンドを解いて、 機外に飛び出した。
 小林大尉のこの美談は、當時の英國の各新聞に掲載せられ、日本海軍軍人の聲價 を高めた。…英國の多くの家庭において、毎朝母親は子供に尋ねた。「あなたは、小林大尉を知っていますか」「はい、知っております」「どうした人ですか」 「多くの人々を救けるために、自分の身の危險を顧みず、燃える飛行機を操縦して、安全な所まで飛び續け、そこで落下傘降下をした人です」という工合に、小 林大尉は、當時の英國において、英雄として取り扱われた》

 源田空幕長の記述は、安倍首相の訓示とほぼ同じ、否、安倍首相の訓示が源田空将の記述と奇しくも同じでした。私がこの著書を読んだのは防大の4年生のときでした。自衛隊を「税金泥棒」と呼んでいる我が国と比べて大違いであり、大変感動しました。

  安倍首相の日頃の言動と行動から、その狙いは我が国を戦後体制から脱却させ、普通の国、主権国家にする、との熱意を強く感じます。そのための手段が安倍内 閣の安保、外交政策で、四本柱は「国家安全保障会議」(日本版NSC)の設立、「特定秘密保護法」の制定、「集団的自衛権行使」の容認、憲法を改正して自 衛隊の「国防軍」への位置付けです。

 第一歩として昨年「国家安全保障会議」創設関連法と「特定秘密保護法」を成立させ、現在、中間目標である「集団的自衛権の行使」に向けて邁進中、最終目標は占領軍に押し付けられた「日本国憲法」(占領憲法)の改正でしょう。

  その四本柱のいずれにおいても軍隊(自衛隊)、軍人(自衛官)が中核として任を果たすべきであることは論を待ちません。だから、安倍首相は訓示で卒業生に 覚悟を促すとともに、それに見合うものとして、春の叙勲で元統合幕僚会議議長(現、統合幕僚長)に対して瑞宝大綬章(旧、勲一等瑞宝章)を授与したので しょう。元自衛官の勲一等は、内務官僚出身の初代統幕議長が退官後、自治医大理事長の肩書で勲一等瑞宝章、元日赤社長の肩書で勲一等旭日大綬章はあります が、それ以降、陸士、海兵、防大出身者を含めて初めてです。因みに今回、一川保夫元防衛相に授与したのが旭日重光章(旧、勲二等旭日重光章)です。安倍首 相の決意の程がうかがえます。

 しかし、政治家、高級官僚、有識者などは、安倍首相の決意を理解せず、NSC、特定秘密保護法、集団的自衛権の行使をめぐる議論において、中核になるべき自衛官を従来どおり軽く扱っています。

自衛官を「歩」扱いする国家安全保障局

  国家安全保障会議には、外交・安全保障政策の基本方針を決定する首相、官房長官、外相、防衛相からなる「四大臣会合」、文民統制機能を維持する「九大臣会 合」、重大な緊急事態に対処する「緊急事態大臣会合」があり、昨年12月4日に発足しました。そして、NSCを恒常的にサポートする事務局「国家安全保障 局」(安保局)が1月7日、67人体制で設置されました。自衛隊OBで構成する「隊友会」が発行する『隊友』(3月15日付、4月15日付)によれば、メ ンバーの半数である33人が防衛省から、その内、自衛官が13人(将補1人、一佐6人、二佐6人)、文官が20人です。

 安保局は、局長が外交官出身、局次長が防衛官僚と外務官僚出身の2人、審議官が防衛官僚、外務官僚、自衛官の3人、その下に次に示す6個班(人員数は『隊友』から)があります。

(1)総括・調整班(19名、長:防衛官僚、自衛官2名)、局内の総括、NSCの事務を担当。
(2)政策第一班(8名、長:外務官僚、自衛官2名)、米国、欧州などを担当。
(3)政策第二班(8名、長:外務官僚、自衛官2名)、北東アジア、ロシアを担当。
(4)政策第三班(7名、長:防衛官僚、自衛官2名)、中東、アフリカなどを担当。
(5)戦略企画班(8名、長:防衛官僚、自衛官2名)、防衛計画の大綱などを担当。
(6)情報班(11名、長:警察官僚、自衛官2名)。

  メンバー67人の内、班長以上のポストが12人ですから、メンバーの半数を占める防衛省に局次長、審議官2人、班長3人の計6人を割り当てたのでしょう。 ところが、この6ポストの内、5人が官僚、自衛官は1人にすぎません。外務省、警察庁は全て官僚ですから、班長以上12人中、「文官」11人に対して「武 官」は1人だけです。全般のバランス上、自衛官5人を班長以上にし、かつ防衛省職員の33人の内、少なくても20人を自衛官にすべきだったのではないで しょうか。

 自衛官は防衛官僚や外 務官僚や警察官僚の配下に置かれ、将棋の“歩”扱いです。海外派遣や災害派遣など緊張感の高い現場で任務に当たるのは自衛官、集団的自衛権が行使され戦死 するのも自衛官、すなわち、種を蒔くのは自衛官、果実を味わうのは官僚、これは文民統制ではなく、官僚統制です。自衛官には現場を経験した適任者は沢山い ます。なぜ、遠ざけるのでしょうか。自衛官に不平、不満が鬱積、禍根を残すことになるでしょう。

特定秘密保護法も自衛隊だけを圧迫

  特定秘密保護法にいう「特定秘密」とは、特定秘密保護法で別表に掲げる(1)防衛に関する事項(2)外交に関する事項(3)特定有害活動の防止に関する事 項(4)テロリズムの防止に関する事項――に関する情報であって、「公になっていないもののうち、その漏えいが我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそ れがあるため、特に秘匿することが必要であるもの」が指定されます。罰則は「特定秘密の取扱いの業務に従事する者がその業務により知得した特定秘密を漏ら したときは、十年以下の懲役に処し、又は情状により十年以下の懲役及び千万円以下の罰金に処する。特定秘密の取扱いの業務に従事しなくなった後において も、同様とする」などと定められています。

  外交、防衛に関して表現する場合の一般的順序は「外交、防衛」ですが、本法では「外交」よりも「防衛」を先に挙げています。また、我が国のマスコミは通常 「警察、消防、自衛隊」の順序で扱いますが、本法においては外国並みに「警察」よりも「自衛隊(軍)」を先に挙げています。防衛を先にしたのは次の二つの 理由から当然です。

 一つは、防衛 省が保持する特定秘密は、防衛省以外の省庁が保持するものよりも国家安全保障上、極めて重要だからです。外国が侵攻してきた場合、自衛隊がどのような行動 をとるのか、保持している装備の性能はどうか、防衛力をどのように整備するのか、武器、弾薬、航空機の研究開発状況など、中国などの外国は喉から手が出る ほど欲しがっているでしょう。知る権利を優先させ、反日的あるいは国家意識欠如の国民や団体に知らせれば、直ちに外国にご注進となり、国の防衛が成り立た なくなります。

 二つは、特定秘密 を取り扱う職員数は、防衛省が防衛省以外の省庁より極端に多いことです。特定秘密保護法によって指定される特定秘密は、現行の「特別管理秘密」に該当する 情報から選ばれるでしょう。現在、政府が保持する特別管理秘密(防衛省の場合は「防衛秘密」)は約42万件あり、その内の9割が衛星写真、衛星写真以外の 情報である暗号や装備品の性能など、ほとんどは防衛省が保持しています。これら防衛省の特別管理秘密がそのまま特定秘密に移行するでしょうが、防衛省以外 の省庁では特別管理秘密を絞ったものになると思われます。

 従って、特定秘密を取り扱う職員は、防衛省以外の省庁では高級官僚や特定職域の職員に限定されますが、自衛隊では“下士官・兵”にも及びます。

  ちなみに特別管理秘密を取り扱う人数も朝日新聞(1月6日付)によれば、防衛省が約6万480人、外務省が2014人、警察庁が553人、内閣官房が 519人、海上保安庁が310人、公安調査庁が154人、経済産業省が89人、総務省が22人、国土交通省が13人、宮内庁が4人で、防衛省が全体の 94%余りを占め、外務省が3%、警察庁は1%以下に過ぎません。

 すなわち、この法律によって、最も制約を受けるのは、自衛隊員、特に自衛官なのです。にもかかわらず、自衛官の身になった議論は見当たりません。因みに、「自衛隊員」とは自衛官の他、事務次官、防大校長などの「文官」、防大の学生なども含みます。

 そして、最大の問題は特定秘密に対する国会議員の認識です。国家防衛のため、如何にして秘密の漏洩を防止するかよりも、「秘密指定の監視」「知る権利」「報道の自由」を優先させています。

防衛秘密のチェックは素人には無理

 「特 定秘密保護法」国会審議の過程で、野党から特定秘密の指定の妥当性などを検証するための「第三者機関」を設置すべしとの意見がでて、内閣官房に「保全監視 委員会」を、内閣府に「独立公文書管理監」、「情報保全監察室」を、有識者による「情報保全諮問会議」の設置をきめ、「情報保全諮問会議」はすでに活動を 開始しました。これらとは別に、国会法を改正して国会内に「監視機関」を特定秘密保護法が施行される今年の12月までに設置する方向で検討がなされていま す。

 第三者機関には大きな問題が あります。例えば、「防衛に関する事項」の特定秘密についていえば、これらの機関の委員である政治家、官僚、有識者などは、ほとんどが兵役の経験がなく、 鉄砲にすら触れたこともなく、命を懸けて国家のために任務を遂行したことがない人たちです。どこが秘密になるのか判断できるとは思えません。

  自衛隊員ではない人たちの秘密保全意識は自衛隊員と比べて低いと思われ、漏洩する可能性が少なくないと思います。と言いますのは、自衛隊員は入隊すれば通 常定年まで勤務し、国家に対する忠誠心があります。入隊に際し、「事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に努め」と「宣誓」しますが、警察官、 海上保安官、検察官を含め一般の公務員は、このような文言の入った宣誓をしません、最高指揮官の首相、防衛大臣、同副大臣、政務官を含め政治家や民間人は 「宣誓」すらしません。

「免責特権」とは「特権意識」なり

 第三者機関の中でも特に問題なのは、国会の「監視機関」でしょう。自公両党は、衆参両院に常設の「情報監視審査会」を設け、秘密指定の妥当性を監視し、必要があると判断した場合、強制力はないが政府に改善を勧告できるとする与党案を決めました。

 防衛省の特定秘密についていえば、政治家には秘密指定の妥当性の判断はできないでしょう。「反日的」議員もいます。彼らが職権を濫用して鬼の首でも取ったように何を言い出すか分かりません。

  何よりも問題なのは、監視機関構成員が特定秘密の提供を受け、それを漏らした場合の罰則が最長5年の懲役にすぎないことです。自衛官や公務員が漏らせば最 長が10年ですから、国会議員も当然最長10年、否それ以上の罰則を科すべきです。政治家が支持者の会合や宴席で票目当てに「○○大臣は二つのことを知っ ていればいい」などと得意顔で国家の秘密をぺらぺらしゃべった場合は厳罰に処すべきが当然です。

  ところが驚くべきことに、森雅子同法案担当相は「憲法の免責特権は大変重い」(平成25年11月15日付朝日新聞夕刊)と答弁しています。日本維新の会も 「監視機関の議員に守秘義務を課し、発言の自由を制限することは法制上、無理がある」(松野頼久国会議員団幹事長)(12月14日付産経新聞)と反発しま した。

 安倍首相も今年の1月31 日、衆院予算委員会で、「秘密漏えいについては、米国とドイツにおいては、例えば、議員に対する免責特権もこの秘密会においてはないということになってい るわけであります。まあ、日本においては、それは憲法において保障されておりますから、そういうことにはならないわけであります」と、安倍首相にしては、 原稿を見ながらの、回りくどい歯切れの悪い、理解するのに骨の折れる発言をしました。

  これらの発言は、憲法第五十一条「両議院の議員は、議院で行った演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない」に基づくと思われますが、この条文 は個人や団体の名誉、プライバシーなどを侵害した場合に当てはまるものであり、国家機密の垂れ流しには当てはまらないのは当然でしょう。我が国よりもはる かに国家意識、国防意識を保持していると思われるアメリカ、ドイツの政治家にすら、安倍首相の発言にあるように「免責特権」がないのです。

  軍人は世界共通です。特に同盟国においては絆が強く、自衛隊の一佐(外国軍の大佐相当)に米軍の中佐は敬礼します。自衛隊の二佐(中佐相当)は米軍の大佐 に敬礼します。米軍は仲間意識から自衛官を信頼しています。それ故、外国の軍人は、政治家や官僚に教えない情報を自衛官には教えてくれるのです。大使館に 防衛駐在官(大使館付武官)が必要なのはそのためです。

 しかし、国会議員に免責特権があると知れわたれば、自衛官に話した情報が国会議員から漏れることをおそれて情報を教えてくれなくなり、「特定秘密保護法」を作ったが故に、今まで以上に情報が入らなくなるという本末転倒の状況となります。

  自衛官や公務員は秘密を漏らせば厳罰で、自分たち政治家は漏らしても罪を免れるとの主張は、思い上がった「特権意識」ではないでしょうか。シビリアン・コ ントロールとか国民の代表とか、聞いて呆れる話です。国会議員が「免責特権」を根拠に国会の本会議や委員会で秘密を話しても刑事罰が科せられないのであれ ば、特定秘密を知らせてはならない国民は唯一、国会議員ということになります。

ただちに為されるべき5つの自衛官処遇改善策

  特定秘密保護法は自衛隊員に一段と厳しい罰則を科しました。さらに集団的自衛権の行使となれば、一段と任務が増えるのは自衛官で、戦死者もでるのは間違い ないでしょう。義務に見合った処遇は当然、自衛隊を軍隊、自衛官を軍人にすることです。自民党は憲法を改正して、国防軍へ位置付けるとしていますが、直ち に改正するのは困難でしょう。ならば、改憲を待たずしてできる以下のことを直ちに実施すべきです。

(1)統合幕僚長、陸上幕僚長、海上幕僚長、航空幕僚長、陸上自衛隊の方面総監、海上自衛隊の自衛艦隊司令官、航空自衛隊の航空総隊司令官を認証官にすべきです。
(2) 今回の叙勲で、元統幕議長に瑞宝大綬章を授与したのは評価されますが、統合幕僚長に限定せず、(1)で挙げた職に対する桐花大綬章、旭日大綬章をはじめ、 全自衛官に現役中に勲章を授与すべきです。現在、大半の自衛官は定年まで勤務しても生存者叙勲すら授与されません。私の防大同期生(陸上要員)の受章者は 20-30%です。軍人に現役中に勲章を授与しない国、まして定年まで勤務しても勲章を与えない国は、世界中で日本だけでしょう。
(3) 主要国では軍人が軍事機密を漏らした場合、軍法会議が裁きますが、我が国では、自衛官が特定秘密を漏らした場合、今までの例から、自衛隊の警務隊ではな く、警察が捜査し、検察が捜査、起訴、求刑するでしょう。が、役人たる警察官や検察官に自衛官を捜査、起訴、求刑させるべきではなく、捜査、起訴、求刑、 裁判権を自衛官に与えるべきです。しかし、憲法に「特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない」とあ りますから、裁判は現行通りとしても、最低限、捜査、起訴、求刑の権限を自衛隊に与えるべきでしょう。
(4)自衛官に戦死者が出た場合、靖国神社に合祀し、首相以下全閣僚が参拝すべきです。自衛官は天皇陛下のご親拝を賜ることも願っていることでしょう。
(5) 防大校長を自衛官にすべきです。外国では通常、士官学校長は軍人です。初代校長の槇智雄氏『防衛の務め』には、「この学校は昔の陸軍士官学校と海軍兵学校 を一つにしたもので、本来ならば当然軍人が校長であるが、吉田首相は今回は軍人でなく、しかも民間から選びたいと決意された」と慶應大学教授、理事などを 務めた槇氏を初代校長に選んだ当時の吉田茂首相の意向を明らかにしています。が、二代目以降においても吉田氏の考えにも反して未だ自衛官が校長に就いてい ません。

 集団的自衛権行使に関して、自民党の中には、中国などの脅威が目前に迫る中、如何にして国を守るかよりも、選挙公約に反して、公明党の支持団体の票ほしさに同党に擦り寄ったり、中国に媚を売ったりする見苦しい議員すらいます。

  政治家、特に与党議員は、安倍首相の防大卒業式の訓示、「安保法制懇報告書」受領直後の会見発言や日米共同声明を熟読玩味して猛省すべきです。集団的自衛 権の行使を含め、安倍首相の安全保障政策に反対を唱える自民党議員は議員辞職か離党をすべきで、公明党は反対を貫くのであれば、与党を離脱すべきが筋では ないでしょうか。

かきや・いさお 昭 和13(1938)年、石川県生まれ。防衛大学校卒業と同時に陸上自衛隊入隊。大阪大学大学院修士課程(精密機械学)修了。陸上自衛隊幹部学校戦略教官、 陸上幕僚監部教育訓練部教範・教養班長、西部方面武器隊長、防衛大学校教授などを歴任し、平成5年に退官(陸将補)。著書に『自衛隊が軍隊になる日』『徴 兵制が日本を救う』。

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